法令順守だけでは対応できない人事労務の未経験ゾーン ~長時間労働の是正と労働力確保を両立する対策~

株式会社YACコンサルティング 代表取締役社長 矢川 孝次郎

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今こそ企業の生き残りをかけた「働き方自体」の改革を始めるとき

5月頃から「働き方改革」や「労働基準監督署の立ち入り強化」が新聞、ビジネス雑誌等のメディアで露出量が急激に増えています。大手企業の過重労働問題をきっかけに長時間労働の是正にフォーカスがあたっていますが、真の狙いは、日本が直面している「急激な少子高齢化に起因する労働人口減少」という深刻な問題に警鐘を鳴らしているのです。この問題は、国家・社会・地域・企業・個人の価値にまで関わり、対策に要する時間的余裕がない状況であること、さらには今までの労務経験則や価値観では解決策は見つからないという難易度の高いテーマなのです。
 平成27年度の厚生労働省の雇用政策研究会の報告では、日本の労働力は年々減少し2030年には就業者が約10%・790万人減少することが予想されています。(【図1】)

▲【図1】2030年までの就業者シミュレーション(男女計)※

男女別に見ると、男性では定年を迎える60歳以降で、女性では30~44歳の子育て世代で、労働力人口が減少の一途を辿ります。(【図2】) 国は、労働力減少の影響を和らげる政策として働きたい人の労働参加をテーマに掲げ、特に30歳代女性、60歳代男性の労働力率向上を目標数値化しています。(【図3】)

▲【図2】労働力率の見直し※
▲【図3】2030年に労働力人口6400万人を維持するのに必要な労働力率※

(※)出所:厚生労働省 平成27年度雇用政策研究会報告書

そこで、労働力率を達成する具体策として打ち出されたのが安倍内閣の「働き方改革」なのです。長時間労働の是正・正規非正規格差解消(同一労働同一賃金の推進)・休暇促進等を含む9項目の働き方改革実行計画を発表し、年内に法案を提出する準備を進めています。この9項目を眺めていると「中小企業いじめ」にしか映らないという感想を持ちたいところですが、これは国や社会構造の激変がもたらすものであり、必然的にすべての企業が対応しなければなりません。

この社会構造の変化には、単なる「労働関連法令の順守」だけでは太刀打ちできなことは明白です。企業は、「会社」と「従業員」が一体となって「働き方自体」の改革に着手しなければ、その存続が危ぶまれることを認識して、今から対策を講じるべきなのです。

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長時間労働の是正に残された猶予はあと2年

2年後の2019年には労働基準法が改正され、罰則つきで残業規制がかかります。さらに5年後には団塊の世代(68~70歳、1947~49年生まれ)が後期高齢者(75歳以上)となり、介護を必要とする人口が急増します。つまり、介護をしながら働くことが当たり前の社会を迎えることになります。このような状況下で各企業は何をすべきなのでしょうか?わかりやすい表現をすれば、「正社員を中心にフルタイムで働く会社」から、育児や介護を含めて「制約条件のある働き方をしても業務運営に支障がない会社」に転換することです。企業は5年後にどのような働き方をする会社になっていたいか「グランドデザイン」を描き、その達成に必要な環境を2年後の法改正までに構築するスケジュールを組むことが非常に重要です。(66~68歳、1947~49年生まれ)

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働き方改革の実現に必要不可欠となる3つのステップ

あと2年間。何から始めればいいのか、本当に長時間労働を解消できるのか、多くの企業が不安を募らせているのではないでしょうか。
私が活動している東北地方では、国全体より速いスピードで少子高齢化が進んでいます。その上、震災による人口流出も加わって労働力不足が企業運営に影響を与え始めており、少しずつこの問題に取り組む中小企業も出始めています。
私が支援する中小企業では、以下の3つのステップを踏むことで改善効果を実感しています。

<ステップ1:法令違反を解消する>

現在、長時間残業・残業代未払い・時間管理がルーズである等の法令違反が慢性化している企業は、その解消努力を早急に取り組まないと次のステップは程遠い苦難の道になってしまうと認識すべきです。2019年の労働基準法改正までに法令違反の解消、長時間残業の是正を行うことを優先します。企業はまずここをスタートしないと労務サバイバルに生き残れないという危機感を持つ必要があると感じています。

<ステップ2:業務フローを改善する>

従来と同じ業務のやり方では、労働時間を減らすことはできません。ステップ1と並行して、人事・総務部門では、社内における労働時間・時間外労働時間の発生傾向とその理由を把握することから始めます。その上で、各部門において業務フローのムダや属人性がある箇所を特定し、システム化などの改善策を検討します。

<ステップ3:業務実態に合わせて労務フレームを見直す>

ステップ2で改善された業務フローと、今の労働時間制度や社内ルールが合っているかを点検します。必要に応じて新しいルールを構築し管理者から従業員へ定着させることで、働き方改革の推進と継続が可能になります。
上記の3つのステップを2年間で到達してこそ、その後の3年をかけて「休暇が取れる会社」「多様な勤務体系が可能な会社」を目指すことができます。
人事労務の業務は今までの考えでは、対応できない時代を迎え始めています。これは、採用・処遇・評価・教育という基本業務において、頭に「人口減時代の」を冠して考え直してみる時だと感じています。今まで経験したことのない人口減時代の人事戦略を構想し、設計することをぜひ始めてください。

次回は、ステップごとの取り組み方法として、私が支援する中小企業の実践例と注意すべきポイントについて述べていきたいと考えております。

  

  

矢川 孝次郎 株式会社YACコンサルティング 代表取締役社長

派遣会社の人事部長として、事業計画連動型の給与・評価制度改革を実践。現在は、人事実務経験者の観点から、給与・評価制度、労務管理制度の構築、運用をサポートしています。

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