ケーススタディで納得!【第五回】どう再構築する同一労働同一賃金を支える評価制度

株式会社BDO人事総合研究所/BDOアドバイザリー株式会社 代表取締役 高瀬 武夫

前回『ケーススタディで納得!【第四回】どう管理する同一賃金における人件費管理』において、目標労働分配率死守型で総額人件費を管理する重要性について述べました。目標労働分配率により総額人件費枠を定め、賃金構造として職能給の上限規制・役割給の洗い替え方式・ポイント式賞与制度を活用して総額人件費を管理する仕組みを説明しました。
また、この総額人件費管理を機能させ賃金制度の公正性・納得性を支えるのは評価制度であり、評価制度の見直しは必須であると述べました。

「働き方改革推進プロジェクト」において、賃金制度・人材育成制度を支える評価制度の再構築についての議論が進んでいます。議論のポイントは、目標管理制度の導入、キャリアコース別「仕事・役割等級基準」の設計、半期評価の導入にあるようです。

 C店長
「前回のプロジェクトにおいて、目標労働分配率死守型で総額人件費を管理する、具体的な賃金構造としては職能給の上限規制・役割給の洗い替え方式・ポイント式賞与制度を導入する。これらの仕組を支えるのは評価制度であり評価制度の見直しは必須であるというのは理解できました。

このプロジェクトにおいても現行の「職能要件書」が曖昧で評価しづらい、そもそもパート職には「職能要件書」がないなどの指摘はありました。店舗現場においても評価制度に対する不満は結構あります。

見直しというマイナーチェンジではなくフルモデルチェンジが必要ではないですか?」

 人事課長

「まず最初に現状の評価制度の内容と課題点を大づかみに整理します。整理表を配ります。」

<現状整理表>

 C店長
「大づかみに整理しただけでも課題はたくさんありますね。やはりフルモデルチェンジですね!?」

人事部長

「社長からも抜本的に再構築してくれとの要望がきている。社長も現状の評価制度には改善課題がいくつかあると感じているようだ。

特に社長は、2015年6月から上場会社に適用された「コーポレートガバナンス・コード」の「取締役会等の責務」というコードを意識している。この中で取締役会は、経営方針・経営戦略・経営計画を明確に描きその実行のPDCAサイクルを確保する。うまくいかなかったらその原因を分析し対策を講じることによって持続的成長を遂げることを求めている。うちは上場会社ではないのでこのコードを遵守する必要はないが、社長は方針・戦略・計画・PDCAサイクルは経営の本質ととらえ中期経営計画の見直しを経営企画室に指示している。

中期経営計画は策定することが目的ではない。実践・実行して成果を得ることが目的である。この実践・実行のための行動計画(計画達成のためのプロセス)を鮮明に描き、どれだけやりきれるかによって中期経営計画の達成度が決まる。この行動計画は社員個々人ごとに策定される。この社員一人ひとりの頑張りを公正に評価できる仕組みにして欲しいというのが強い要望だ。

それと、評価と人材育成の連動性を高めてくれとのことだ。外部環境が厳しい中で持続的に成長していくには社員の成長なくしてはあり得ない。社員成長による労働生産性の向上を強く意識して欲しいということだ。

このテーマについては、経営会議において以下に示す「経営計画達成ストーリー」の全体像を見直すことを決定したところだ。当プロジェクトもこの達成ストーリーと同期をとることが求められる。」

<経営計画達成ストーリー>

 C店長
「言われてみれば、店舗の売上・利益・人時生産性などの達成目標は店長として常に意識していますが、店舗スタッフ一人ひとりの「目標達成のためにやるべき仕事」を具体的に設計してません。それぞれのリーダーに任せきりで結果だけ見ていて、その達成プロセス管理は全くできていないのが現状です。

また、職能要件書では知識・スキルの評価はできますが店舗目標達成への貢献度を評価するのは無理があり、仕組の改善が必要と思います。

これは大きな反省点ですが、評価を店舗スタッフの育成につなげていくという視点は希薄でしたね。Aさんは何ができていて・何ができていないのかをしっかり把握した上で育成課題を整理し育成プログラムを策定、そして計画的にOJTするということはしてこなかったです。」

 人事課長
「今、人事部長にお話し戴きました社長や経営会議の意向、そして素直に話して戴きましたC店長の現場実態などを踏まえて現在人事において評価制度改訂の基本的考え方を次のように整理しています。」

<評価制度改訂の基本的考え方>

 C店長
「現在、安倍内閣が強力に推し進めている働き方改革の本質は、労働生産性の向上にあると聞いた覚えがあります。生産年齢人口(15~64歳)が減少する中で一人当たりの労働生産性を上げるには、付加価値創造に直結する仕事に集中する必要がある。よって社長は労働生産性を向上させるために、中期経営計画からの落とし込み展開を重視しているということですよね。この落とし込み展開を実践する仕組として「目標管理制度」を導入し目標達成のためにやるべき仕事を個人別行動計画として明確にした上でその達成度を公正に評価する。

それと、同一労働同一賃金ガイドラインが求めている「不合理な待遇差」の解消を図るためにキャリアコース別の「仕事・役割等級基準」を設計し、キャリアコースごとの職務内容と責任の程度を明確にした上で評価を行い、その評価結果を人材育成につなげる。

そして、目標管理制度における「行動計画」の進捗レビュー(進捗支援面談:1/月)と「仕事・役割等級基準」に基づくパフォーマンスレビューを半期ごとに実施することによって、

  • ①目標達成の確実性を高め、
  • ②評価の公正性・納得性を確保し、
  • ③人材育成を着実に進める。
  • ④その結果として一人当たり生産性を向上させる。

という理解でよろしいでしょうか?」

人事部長

「相変わらずC店長の理解は素晴らしいですね。

目標管理制度は中期経営計画を出発点として落とし込む仕組なので経営トップから真剣に係わってもらうことになる。この上流工程は経営層および経営企画室が中心になってブラシュアップしている。

運用展開においてはC店長クラスのミドル層がしっかり機能してくれるかがカギ。計画達成のためのプロセス設計とその進捗レビュー(進捗支援面談)をどこまでやりきれるかが重要ポイントといえる。目標管理の仕組づくりとその運用においてしっかり活躍して欲しい。

「仕事・役割等級基準」の設計についてはこの「働き方改革推進プロジェクト」だけでは難しいと考えられるので、プロジェクトの下にワーキンググループを作って進めていくことを考えている。」

 人事課長
「それでは私から「評価制度改訂の基本的考え方」に基づいて改訂ポイントのアウトラインを説明します。

目標管理制度の導入についてですが、評価対象項目としては現行の①業績・成果 ②能力 ③情意の3項目の枠組みは変更しない予定です。

①業績・成果を評価する仕組として目標管理制度を導入します。先程、人事部長が「経営計画達成ストーリ―」でお話し戴いたように、現在経営層および経営企画室において、

  • 中期経営計画 ⇒ 単年度計画

の見直しが行われています。目標管理制度は、この単年度計画を受けて、

  • 部門・部署別計画 ⇒ 個人別行動計画

まで展開する仕組となります。部門長・部署長が自部門・自部署の目標を達成するためのKPI(Key Performance Indicator)を設計し、このKPIをクリアするためには、「誰が・何を・何時までに・どうする」などを明確にしてから個人別目標に落とし込む。各個人は個人別に設定された目標を達成するための行動計画(何を・何時までに・どうする)を描き実践することによって経営目標達成の確実性を上げるとともに個人別の達成度を公正に評価できる仕組を構築します。

例えば、単年度目標として「人時生産性20%アップ」が設定されたとします。これを受けて店長は自店舗の人時生産性20%アップの「目標設定」と目標達成のための「行動計画」を青果・鮮魚・精肉・グロサリーなどの責任者と一緒に策定します。(※人時生産性 = 粗利益/総労働時間)店長のみで策定するのではなく担当責任者を巻き込んで策定することが大事です。知恵を出してもらいますし、当事者としての責任感ももってもらいます。実践ステップとしては次のような展開が考えられます。

  • STEP1 人時生産性20%アップ(個別目標)のための実践行動の策定とKPIの設定
  • STEP2 個人別行動計画へのドリルダウン
  • STEP3 進捗支援面談の実施

     

まずはSTEP1からみてみましょう。

     

STEP1 人時生産性20%アップ(個別目標)のための実践行動の策定とKPIの設定

  • (1) ミッシーフレームワークにより実践行動を描く。他の目標についてもフレームワークを活用してドリルダウン展開により実践行動にまで落とし込む。
  • (2) 実践行動(参考例Ⅰ①~⑧)それぞれにKPIを設定する。
  • ※以下に参考例(参考例Ⅰ)を示す。

人時生産性20%アップを達成するためには、何を・どうしたらよいかをドリルダウン展開します。人時生産性は粗利益/総労働時間で算出されますので「粗利益を上げ」「総労働時間を低減」させるにはどうしたらよいかをドリルダウンします。さらに、ドリルダウンすることにより実践行動(参考例Ⅰ右端欄)まで展開し「実践行動」ごとにKPIを設定します。

     

     

次にSTEP2です。

     

STEP2 個人別行動計画へのドリルダウン

  • 実践行動(参考例Ⅰ①~⑧)をミッシーフレームワークを活用してドリルダウンすることにより、具体的行動計画を描く。
  • ※以下に参考例(参考例Ⅱ・Ⅲ)を示す。

参考例Ⅰにおける④廃棄ロス率の3ポイント削減(参考例Ⅰの右端欄)を達成するにはどうしたらよいかをドリルダウン展開します(参考例Ⅱ)。廃棄ロス率を低減するための、「適正発注」と「売り切り」を具現化するにはどうしたらよいかをドリルダウンし、具体的行動(参考例Ⅱ・右端欄①~⑧)まで展開します。この「具体的行動」(①~⑧)を各個人に割り振り、この具体的行動を実行するために各個人が「何を・何時までに・どうする」を半期スケジュールで具体的に設計します(参考例Ⅲ)。この参考例Ⅲの「個人別行動計画」が成果物であり、参考例Ⅰ・Ⅱはプロセスツールにすぎません。この参考例Ⅲ「個人別行動計画」をしっかり作成することが肝要となります。

     

     

     

最後にSTEP3です。

     

STEP3 進捗支援面談の実施

  • (1)月1回上席者による進捗支援面談の実施
  • 行動計画の実践状況を月1回定期的に上席者と確認する。上席者はスタッフの1ヵ月の仕事ぶりをしっかり観た上で支援を行
  • (2)個人別行動計画の修正と面談記録の整備
  • 行動実績をしっかり把握した上で必要に応じて行動計画の修正を行う。また、面談記録もしっかり残し半期評価に反映する

参考例Ⅲ「個人別行動計画」を基に月1回面談することが重要ポイントになります。確かに、月1回の面談を行う時間を確保することは大変と思いますが、1ヵ月間の仕事ぶりをしっかり観て支援することは行動計画の達成率を上げることのみならず、スタッフとのコミュニケーション総量が上がります。コミュニケーション総量が上がることの効果は、動機づけ・承認欲求の充足・チームビルディングなど多くの効果が期待できます。結果として、定着率の向上や生産性向上につながるといえますので、しっかり実行してもらいたいと考えています。ポイントは、進捗支援の場は「ダメ出しの場」ではなく「進捗支援の場」であるということです。さらに言えば、店長等の管理職の評価にこの進捗支援面談の実施状況を評価項目として入れることも検討しております。評価項目に入れるくらい重要な業務ということです。

以上、説明しました、

  • STEP1 人時生産性20%アップ(個別目標)のための実践行動の策定とKPIの設定
  • STEP2 個人別行動計画へのドリルダウン
  • STEP3 進捗支援面談の実施

を全部署で展開し全社員の個人別行動計画を策定・実行することにより、単年度計画の必達と業績・成果項目の評価の公正性・納得性を確保する仕組を構築します。

次に、現在の「職能要件書」をキャリコース別の「仕事・役割等級基準」に改訂し、キャリアコース別・職種別・等級別の仕事・役割および求められる知識・能力等の設計について説明します。

キャリアコース別:仕事・役割等級基準の設計についてですが、初回のプロジェクトにおいて「同一労働同一賃金ガイドライン」に則して、①職務内容と責任の程度 ②人材活用の仕組と運用の徹底を確保するためにキャリアコース別の職群管理の仕組を下図のように構築をしました。

 

「キャリアコース別:仕事・役割等級基準」は、上記構造体系図の一つひとつのボックスの中味(等級別に期待される仕事・役割)を明記するものです。

キャリアコース(メンバーシップ型・ジョブ型・エリア限定型)ごとに整理すると次のようになります。

     

上記のキャリアコース別・等級別に期待される仕事・役割をワーキンググループで設計していきます。ワーキンググループのメンバーは、それぞれのキャリアコースの業務内容を熟知したメンバーを選出します。

仕事・役割基準の設計ポイントとしては次のポイントが挙げられます。

  • (1) 現状の業務内容(業務フロー)を整理する(日次・週次・月次・四半期・半期)
  • (2) 業務の目的を整理する(何のために行っている業務なのか)
  • (3) 業務遂行上において求められる知識・能力を明確化する
  • (4) 責任の程度を明確化する
  • (5) 現状実施していないが、将来(中長期経営計画等)を見据えて今から実施しなければならない業務を拾いこむ

      

具体的設計に当たっては次に示す中央職業能力開発協会:職業能力評価基準ポータルサイトにアップされている以下に示す、「職業能力評価基準」「職業能力評価シート」などを参考にしながら設計していくことを考えています。

      
 

     

     

 C店長
「中央職業能力開発協会の資料は参考になると思いますが、ワーキンググループで「キャリアコース別:仕事・役割基準を設計していくことはハードルが高くないですか?」

 人事課長
「ちょっと時間は掛かるかもしれませんが、困難とは思いません。各キャリアコースの当事者・責任者が頭を整理し業務改善を進めるよい機会であるといえます。ベストな仕事・役割基準を作成しなければいけないと考えなくとも良いと思います。ベターな基準を作成し、常にブラッシュアップしていくことの方が重要と考えています。常に外部環境・内部環境は変化していくわけですし。」

人事部長

「確かに、仕事・役割基準の設計や目標管理制度における個人別行動計画への落とし込みは時間とエネルギーが必要と言える。しかし、生産性向上と評価における公正性と処遇における納得性を確保するためには必要な仕組づくりといえる。皆の知恵だしと頑張りに期待しているよ。」

     

     

次回は、キャリア開発とワーク・ライフ・バランスについて『ケーススタディで納得!どう再構築する 同一労働同一賃金におけるキャリア開発とワーク・ライフ・バランス』と題して「働き方改革推進プロジェクト」における検討ポイントを解説します。検討ポイントは、多様な働き方の確保と自律的なキャリア開発にあります。

 

人事課長がワーク・ライフ・バランスを確保するための3軸モデル(企業人・社会人・家庭人)と自律的なキャリア開発について提案してきます。

   

        

    

高瀬 武夫 株式会社BDO人事総合研究所 /BDOアドバイザリー株式会社 代表取締役

上場・中堅企業を中心に、企業の成長を裏付ける「人と組織」を活性化させるマネジメントシステム構築に従事。経営目標達成のための「仕事」を基軸に据えた評価制度、賃金制度、人材育成制度の再構築により労働生産性向上支援を行う。

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