ケーススタディで納得!【第二回】
どう確保する同一労働同一賃金のための働き方の多様性

株式会社BDO人事総合研究所/BDOアドバイザリー株式会社 代表取締役 高瀬 武夫

前回『ケーススタディで納得!【第一回】知っているようで知らない「同一労働同一賃金」とは』において、生鮮スーパーで同じ職場で働くパートAさんと大卒定期採用(総合職)のB君のケースで同一労働同一賃金の意味を解説しました。

パートAさんは自分とB君は同じ仕事をしているのにB君の方が賃金が高いのはおかしい、同一労働同一賃金ではないかと主張しました。「同一労働同一賃金ガイドライン案」(2016年12月20日公表)において、①職務内容と責任の程度、②人材活用の仕組、が異なる場合における待遇差は不合理ではないとしています。

逆に言えば、①職務内容と責任の程度、②人材活用の仕組、が同じであれば、性差・年齢・学歴・雇用形態等の違いに拘わらず同一賃金にしなさいということです。

どうやら同一労働同一賃金においては、上記①②の違いを明確にするために社員の働き方の違い(キャリアコースの違い)をより明確にした「働き方の多様性」を確保しておくことが重要となりそうです。

生鮮スーパーに発足した働き方改革プロジェクトにおいて、働き方の多様性を 確立し均衡待遇を確保するための制度設計についての議論が進んでいます。

 

 人事課長
「現状我が社の人材活用は、四大卒の総合職、高卒のエリア職、パート職等の非正規社員の3つに大別され、それぞれキャリア開発、処遇形態が異なっています。この総合職・エリア職・非正規社員との間において待遇差があることは「同一労働同一賃金ガイドライン案」に照らして問題ないと考えられます。」

 C店長
「では我が社では同一労働同一賃金に向けての手直しはなくてよいということですね。」

 人事部長
「いやぁ、そうはいかないよ。職務実態として高卒エリア職とパート職との職務内容と責任の程度、人材活用の仕組の見直しおよび総合職のキャリア開発についても改善が必要と考えているよ。」

 C店長
「具体的には?」

 人事部長
「高卒エリア職は自宅から通勤可能な店舗への異動ありの制度となっているが実態としては異動がなく同じ店舗で勤務している。担当職務もパート職とほぼ同じ。場合によってはパート職の方が責任ある職務を担ってもらっているケースもある。この実態からすればエリア職とパート職における違いはなく同一労働同一賃金で同じ処遇をしなければいけなくなると考えられる。しかも賃金はエリア職の方が高い。」

 C店長
「確かにパートさんからエリア職の人は店舗異動があると聞いているが、実際に異動している人はいない。担当している職務内容も責任の程度もパート職の方が高い場合があるのに賃金が低く賞与もないのは納得できないという声を聞きます。そうは言っても、簡単にパート職の賃金を上げる訳にはいかないですよね。人件費が結構増えますものね。」

 人事部長
「そうなんだ。エリア職の、①職務内容と責任の程度、②人材活用の運用実態の見直し、が必要と考えている。

あとは四大卒の総合職のキャリア開発についてだ。総合職は辞令一本でどこでも・どんな職務でも担当する仕組になっている。標準モデルとしては、30歳くらいまで店舗現場を3店舗ほど経験し、小規模・中規模・大規模店舗の店長を経て、30代後半でブロック長に就くキャリアモデルとしている。

ここに組み込まれていないのが専門職、例えば、仕入れのプロ(プロバイヤー)、店舗開発のプロ、販売促進のプロ、新店立ち上げのプロ等を育成していくキャリアコースが明確になっていない。専門職の育成コースを設計し、その職務内容と責任の程度、人材活用の仕組を構築する必要があると考えている。」

 人事課長
「今、人事部長やC店長が言われたことを絵にするとこんな構造図になるかなと考えています。」

   

人事課長は構造図をプロジェクトメンバーに配布しポイントを解説した。

   

多様な働き方:構造体系図

(キャリアコースと均衡待遇)

 人事課長
「お手元の資料をご覧ください。

メンバーシップ型は現在の大卒:総合職、エリア限定型はエリア職とパート職、ジョブ型は新設のコースでプロフェッショナル人材(その道のプロ)を目指すコースとなります。コース転換は可能とします。

メンバーシップ型においては店長・ブロック長・店舗運営部長などの役職者の責任範囲を広げよりその責任を明確にします。現在の売上・店舗貢献利益・人時生産性などの業績指標にプラスして、人件費効率・定着率・人材育成度など労働生産性向上のためのKPI(業績評価指標:Key Performance Indicator)になる指標等を加えることにより店舗経営、ブロック経営により一層責任を持ってもらいます。当然、その責任の程度に応じた待遇にしていきます。

エリア職は、高卒定期採用を基本とし小・中規模店舗に店長になれるコースですが、現在はこのキャリア開発制度や担当職務設計が曖昧です。そのため、パート職との違いを明確に説明することができない状態です。改定案としてエリア職には、精肉・鮮魚・青果・グロサリーなどの部門を計画的に経験してもらいマルチプルに対応できる多能工として育成し、その後各部門の責任者として部門売上・シフト管理・発注などの責任を負ってもらうことを期待します。多能工として育成することにより、社員のみなさんが育児や介護などにより一時期職場離脱する場合の対応を効率的に行うことも狙いとしています。エリア職の、①職務内容と責任の程度、②人材活用の仕組、を抜本的に見直しパート職との違いを明確にしたいと考えています。

パート職の活用についてもプロジェクトで検討していきたい、少なくとも評価制度は構築しないといけないと考えています。」

 C店長
「なるほど。複数の働き方のコースを設計することによりそれぞれコースごとの、①職務内容と責任の程度、②人材活用の仕組、を明確に定める、そして、③コースごとに処遇が異なることを制度化する、ということですね。」

 人事課長
「はい。複数の働き方のコースを設計することにより育児・介護など社員のみなさんのワーク・ライフ・バランスに応じたキャリアコースの変更が可能な仕組にし、貴重な人材の定着化を促進したいと考えます。また、60歳定年以降の再雇用者についても検討すべきと考えています。全く同じ仕事をしているのに賃金だけが0.7掛けになる現在の仕組はまずいと思います。定年後、どのコースでどのような働き方をするのか本人と話し合い待遇を決められるようにできればと考えています。今秋の国会で労働関連法令の改正が予定されています。会社側(事業者)に待遇差が不合理でない理由を説明する義務が課される予定です。今ご説明した構造体系図に基づく説明ができれば心配ないと考えられます。」

   

プロジェクトメンバー一同は、構造体系図に示された各コースごとの評価⇒処遇⇒育成の仕組をしっかり造り上げなければいけないという緊張感とプロジェクトの重要性を再認識した。

   

次回は、『ケーススタディで納得!【第三回】どう設計すればいい 同一賃金の基本構造』と題して「働き方改革推進プロジェクト」における検討ポイントを解説します。

検討ポイントは、働き方の多様性を確保したキャリアコース別の処遇構造を「同一労働同一賃金ガイドライン」を踏まえて、いかに再構築するかにあります。人事課長が、働き方改革実現会議の有識者メンバーであるイトーヨーカ堂の事例を参考にしながら再構築案を具体的に提案してきます。

   

        

    

高瀬 武夫 株式会社BDO人事総合研究所 /BDOアドバイザリー株式会社 代表取締役

上場・中堅企業を中心に、企業の成長を裏付ける「人と組織」を活性化させるマネジメントシステム構築に従事。経営目標達成のための「仕事」を基軸に据えた評価制度、賃金制度、人材育成制度の再構築により労働生産性向上支援を行う。

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